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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)3520号 判決

原告 福田一朗

右訴訟代理人弁護士 栗須一

被告 竹名健太郎

右訴訟代理人弁護士 平山芳明

主文

一  被告は、原告に対し金四九八、二〇〇円および右金員に対する昭和四二年七月二一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一  原告のその余の請求を棄却する。

一  訴訟費用はこれを二分しその一を原告の、その余を被告の負担とする。

一  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一  但し、被告において原告に対し金三五〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

第一  原告の申立

被告は、原告に対し金九三〇、七六〇円および右金員に対する昭和四二年七月二一日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二  争いのない事実

一、本件事故発生

とき  昭和四二年四月二五日午後一時三〇分ごろ

ところ 大阪市西成区西四条二丁目一〇番地先

事故車 普通貨物自動車(大四ふ四六二六号)

運転者 訴外 西沢深

受傷者 原告(普通貨物自動車運転中)

態様  前記道路上において先行していた原告に事故車が追突した。

二、事故車の運行供用

被告は事故車を保有し自己のための運行の用に供していた。

三、運転者の使用関係

被告は土木建築業を営み訴外西沢を運転手として雇用し自動車運転の業務に従事させていた。

四、事業の執行

本件事故当時、訴外西沢は、被告の前記営業のため事故車を運転していた。

五、運転者の過失

訴外西沢には前方不注視の過失があった。

第三 争点

(原告の主張)

一、責任原因

被告は左の理由により原告に対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠 自賠法三条、民法七一五条

該当事実 前記第二の一ないし五の事実

二、損害の発生

(一)  受傷

傷害の内容

頸部傷害(鞭打症)

(二)  療養関係費 計一四、二〇〇円

原告の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 治療費  五、〇〇〇円

(2) 鍼治療費 九、二〇〇円

(三)  代人雇入れによる損害 二六、〇〇〇円

原告は、従来一日三〇〇〇円の収入を得て稼働していたところ、本件事故による負傷のため一三日間休業を余儀なくされたのであるが、その間自からの負担により代人を雇入れなければならず、これに対し一日五、〇〇〇円の日当を支払ったので一日二、〇〇〇円合計二六、〇〇〇円の減収を余儀なくされた。

(四)  代車賃借料 二〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により日頃営業に使用していた被害車が使用不能となり、一旦修理したが傷み方がひどく調子が悪いので新車との取替を余儀なくされ、新車の車券が下るまで代車を借入れて使用し、その借入料として金二〇〇、〇〇〇円を支出した。

(五)  新車買替代 二〇〇、六〇〇円

被害車両を金三四〇、〇〇〇円で下取りに出し新車を五四〇、六〇〇円で購入し、差額二〇〇、六〇〇円を出捐、負担した。

(六)  精神的損害(慰謝料) 三〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

前記傷害を受け、幸い休養治療二週間で小康を得たが、その後引続き頸部の鈍痛、肩こり等の後遺症状が現われ医薬治療、鍼治療を受け、日々不愉快なまま就労している。

(七)  弁護士費用 一八九、九六〇円

原告が本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は金一八九、九六〇円。

(被告の主張)

(一)  原告に鞭打症の傷害は発生していない。

事故後、追突事故のことでありむしろ被告側において鞭打症を心配し被告の方から要請して大阪府立病院において精密検査を受けた結果、その心配のないことが判然とした。よって、この点に関する原告の主張は措信できない。

(二)  代人雇入費は原告の損害ではない。

原告は「はり半」に勤務しているものであって、仮りにその主張の如き出捐を生じたとしてもそれは「はり半」の損害であって原告がこれを負担すべき理由は何もない。

(三)  代車賃借料の請求は不当である。

本件事故後、被告車の修理期間中の代車については被告の方からわざわざ申し出をなして被告所有の自動車に運転手をつけて提供したところ、わずか一日で原告の方から右提供を拒否した。しかも、被害車は事故後数日にして使用可能の状態に修理されていたもので原告主張の如く長期に亘る代車使用の必要性があったとは到底考えられない。

(四)  新車買替代は本件事故による損害とは云えない。

被害車は、前述の如く使用可能状態まで修理されていたもので、これを新車に買替えたことは本件事故と何ら因果関係がなく、これを請求するのは筋違いも甚しい。

(五)  慰謝料について

前記の如く府立病院において鞭打症の症状はないと診断されていたものであり、原告主張の慰謝料算定の根拠は理解し得ない。

第四 証拠 ≪省略≫

第五 争点に対する判断

一、責任原因

被告は左の理由により原告に対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠   自賠法三条、民法七一五条

該当事実 前記第二の一ないし五の事実

二、損害の発生

(一)  受傷

(1) 傷害の内容

鞭打症(証拠≪略・以下同様≫)

被告は、原告に右傷害の生じたこと争うが右各証拠によればこれを肯認するのが相当であり、被告本人の供述も右認定を左右するに足りず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(2) 治療および期間(昭和・年・月・日)

(1) 自四二・四・二五―至〃・六・一三

右期間中に一五回位沢田医院へ通院治療を受けた。受傷直後よりも、一〇日目位からの方が頭痛、手のしびれ、だるさ等の症状が顕著になったりして、完治しなかった。

(2) 同年五月下旬ごろから白矢鍼灸科院にて治療を受けている。同年一〇月末までの通院回数は四〇回位。

(3) 昭和四三年一〇月現在、頭痛、手のしびれ等の自覚症状が無くならない。

(二)  療養関係費 計一四、二〇〇円

原告(三七才)の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 治療費 五、〇〇〇円

原告主張額を下らない。

(2) 鍼治療費 九、二〇〇円

原告主張額を下らない。

(三)  代人雇入による損害

原告は調理師であり、日本料理店「はり半」高島屋店の責任者として自動車持込みで勤務し、日当三、〇〇〇の収入を得ていた者であるところ、本件事故のため昭和四二年四月二六日より同年五月八日までの一三日間欠勤し、その間業界の慣例にしたがい自からの責任と負担において訴外脇谷剛至を代人として雇入れ一日五、〇〇〇円の日当を支払った。その結果、自己の日当との差額一日当り二、〇〇〇円合計二六、〇〇〇円が原告の負担に帰し、同額の損害を蒙った。

(四)  代車賃借料 五〇、〇〇〇円

原告は被害車両の所有者であり日頃これを前記営業のために使用していたのであるが、本件事故により破損したためその修理期間中(約一〇日間)およびその後修理が完全でなかったため新車に買替えるまでの期間中訴外近藤喜代治から代車を運転手附で賃借しこれに対し一日四、〇〇〇円の割合で総計一〇〇、〇〇〇円位の対価を支払ったものと認められる。

しかし、被害車は修理の結果事故後一〇日目位には、一応、運転、使用に耐え得る程度に修復されていたこと、原告本人の供述によるも原告が販売業者に新車の購入を申入れてから三、四日後には新車が届けられたと認められること、被告からも運転手附で代車を提供してもよい旨の申入れがなされ、現に訴外西沢が自動車をもって原告の勤務する高島屋店におもむいていること等の事情を斟酌すると、前記修理期間のほか原告が新車に買替えることを決心してから実際に入手するまでに若干の日時を要したことを考慮しても、右出捐のうち本件事故による損害として賠償を求め得べきものは金五〇、〇〇〇円程度と認めるのが相当である。

(五)  新車買替代 一四八、〇〇〇円

原告は被害車を一旦修理したが運転席の背もたれの部分が完全には原状に復さずドアーが走行中にガタガタと音をたてたり、ハンドルに左へよるくせがついたりしたため、これを三一五、〇〇〇円で下取に出して新車(価格四六三、〇〇〇円相当)を購入し、その代金を分割払にしたため合計五八五、〇〇〇円を支払うべき債務を負担を負担したものと認められる。

ところで、被告は右買替は本件事故と何ら因果関係のないことであると主張するが、被害車が事故当時まだ比較的に新らしい車であったことや、修理にも拘らず右の如き欠点が残されていたことを考慮すると原告がこれを新車と買替たことも無理からぬところであり、一般社会人の立場からみてもあながち、不当なこととは云い得ない。したがって、これをもって、被告の云うように本件事故と全く因果関係のないこととして一概に排斥し去ることはできず、他に特段の事情の主張、立証されない本件においては、原告が新車買替のために負担した費用のうち、前記新車の価格(四六三、〇〇〇円と下取り価格の差額、金一四八、〇〇〇円程度)は本件事故による損害と認めるのが相当である。

(六)  精神的損害(慰謝料) 二〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 前記傷害の部位、程度と治療の経過。

(2) 本件事故の態様(証拠≪省略≫のほか(一)の(2)に同じ)

(七)  弁護士費用 六〇、〇〇〇円

本件事案の内容、審理の経過、前記の損害額に照らすと、被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは金六〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

第六 結論

被告は、原告に対し金四九八、二〇〇円および右金員に対する昭和四二年七月二一日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 上野茂)

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